ただ「触れる」だけのタクティールケアとは
タクティールケアとは、1960年代に、スウェーデンの未熟児看護に関わっていた看護師の間で生まれた、タッチケアの一種です。
タクティールとは、ラテン語で「触れる」を意味します。
当時、未熟児の手に触れることで、親子のコミュニケーションが深まるほか、赤ちゃんの発育が促されることに着目した看護師たちによって、その後、手技療法として確立されました。
最近では、タクティールケアには、認知症患者の攻撃性を和らげる効果があることが注目され、介護の現場でも取り入れられるように。
病気の発症によって、不安や混乱が生じた老人の気持ちを落ち着かせ、穏やかな心を引き出すと言われており、また、未熟児や認知症以外にも、がん緩和や、障がい者、いじめ予防などのケアで活用されています。
タクティールケアの効果について
タクティールケアは、マッサージとは違って、肌の表面に触れるだけ。
それだけで医学的な効果が得られるのは、皮膚に軽く接触し続けることによって脳の中で分泌される、オキシトシンというホルモンが関係しているのです。
オキシトシンは、もともと、お母さんの陣痛の誘発や母乳の分泌の促進の効果があることで知られていましたが、最近では、人への信頼感や共感へ影響することがわかってきました。
そのため、オキシトシンは、お母さんと赤ちゃんだけではなく、恋人、友人など、さまざまな人間関係において、人との絆を深める効果があると考えられているのです。
また、ある化粧品会社の研究によって、オキシトシンを添加された皮膚の細胞が、細胞の成長に関わる成長因子IGF-1を分泌するということが判明。
さらに、ラットを使った実験では、オキシトシンを投与された赤ちゃんは通常よりも成長が早いほか、妊娠中に投与したお母さんから生まれてきた赤ちゃんが、通常よりも大きかったことから、オキシトシンが細胞の成長に大きな影響を与えていると考えられています。
オキシトシンが赤ちゃんにこのような効果を与えることを、スウェーデンの看護師たちは50年も前から知っていたんですね。
大切なのは愛情をこめて「触れる」こと
やさしく包み込むように赤ちゃんに「触れる」ことが、タクティールケアのポイントです。
大切なのは、一定の速さ、一定の強さでゆっくりと触れること。
肩から指先、太ももからつま先、胸からお腹にかけて、時間をかけてゆっくり触れてあげましょう。
さらに重要なのは、愛情を持って触れるということ。
お母さんの愛情を全身に受けた赤ちゃんは、心身ともすくすくと成長するはずです。